「トムラウシ遭難事故を考える」シンポジウム
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「トムラウシ遭難事故を考える」シンポジウム


2009年7月16日大雪山系トムラウシでの遭難事故から半年。
今後、二度と同じようなツアー登山事故を起こさないために
多くの組織と研究者・登山家・マスコミ関係者、
登山愛好家が一同に会し、
事故の背景と原因を探ると共に、今後の対策など、様々な観点から議論、
シンポジウムが行われた。

2010年2月27日(土)

神戸市・王子動物園ホール

主催   日本山岳サーチ・アンド・レスキュー研究機構

共催   社団法人日本山岳協会、日本勤労者山岳連盟、日本山岳レスキュー協議会

参加者298名
スタッフ、マスコミ(含む)総320名


日本山岳サーチ・アンド・レスキュー研究機構から当日の資料PDF文書、及び、
日本山岳ガイド協会がまとめた、「トムラウシ山遭難事故調査報告書(最終報告書 PDF)」が
公表されました。

http://subeight.wordpress.com/2010/02/25/20090716-tomuraushi-report/

詳しくはそちらを御覧下さい。

ここでは当日のプログラム掲載程度に留めました。


開会 総合司会  古賀英年(日本山岳サーチ・アンド・レスキュー研究機構 理事長)

お亡くなりになられた八名の方への黙祷。

挨拶 内藤順造(社団法人日本山岳協会副会長・専務理事)

全国登山大会協議会の開催中この事故の報に接しました。
今回のシンポジウムは、問題解決をそれぞれの専門家が連携をとって進めていく、日本山岳サーチアンドレスキュー研究機構の大きな事業となりました。
なぜ事故が減少しないのか、二度と事故を起こさないために、多くの専門家関係者に事故を深く掘り下げ、解析調査をしていただいて、登山者に広く知らせて楽しい登山の糧としていただくように願います。

戸田新介氏による「トムラウシからの生還」

参加者同士、及びガイドとの連帯感が薄かったこと、一日目からのペースの速さ、疲れがたまりペースの遅れていく状況、各人の連絡が取れずパーテイがばらばらになっていった。ガイドの声も聞こえなかった等、当時の状況が詳細に報告された

「生きて帰った者は十字架を背負っているような気がします」


第一部 遭難事故の原因と背景について(基礎的な情報の提供)

座長 村越真氏(静岡大学教授)
  このトムラウシ事故の原因を追求する。それによって対策を講じる。
  当事者の責任を追求する場ではない

(1)報道側から見たトムラウシ山岳遭難事故の外観と推移 
          岩城史枝(岳人編集部)

参加者15名ガイド3人シエルパ1名19名の登山ツアーの開始時からの当時の行動が岩城氏から詳細に報告された。

参加者同士はお互いの名前も知らなかった。
一日目は速いペースで体調不良で嘔吐する参加者もいた。
二日目も雨の中。速いペースだった 。
三日目出発時は雨で、稜線で強風だった。
遅れるものが出始め、ビバークするもの先に進むものパーテイがバラバラになっていった。
会場からの質問に対する岩城氏の回答
参加者のザックは8k以下と指示されていた。
・各自の装備はしかりしていたと思われる。
・食事は参加者持参でガイドがお湯を提供する方法だった。

(2)山岳遭難事故におけるトムラウシ問題の位置づけ
          青山千彰(IMSAR-J 会長)
  <ツアー登山としての問題点>

・登山ブームの終焉と増え続ける遭難事故の背景
・急速に高齢化する遭難事故者
・変化する登山形態、ツアー登山の成長と問題点
・多様化する高齢登山者意識
・おまかせ感覚の登山参加
・ガイド資格の見直し
・美しい背景を強調したお花畑に潜む登山リスク
・トムラウシから学ぶ登山情報

(3)大雪山系における遭難事故時の気象状況
        城所邦夫(山岳気象アドバイザー 元気象庁山岳部)

地上と山の上の天気の違いについて、そして当日の気象状況の説明
16日の平地の天気は午前中雨も止んで次第に曇から晴れ。
しかし標高の高い大雪山系では悪天候が残り冷たく強い風雨状況となっていた。

(4)トムラウシにおける低体温症について
        船木上総 (苫小牧東病院副院長)

 トムラウシで登山者から熱を奪ったもの
 <風>
  風が強くて立っていられなかった。
  山頂へ向かう稜線では横風で吹き飛ばされそうになった。
 <濡れ>
  下着までずぶ濡れで体が冷え切っていた。
 <低温>
  前日から低気圧から延びる前線が通過していた。
  前線が抜けても雨量が減るだけで風は強まり気温が下がることのほうが多い。
   ・とにかくこの日はものすごく寒かった。(参加者)
 <接触物(岩、地面)>
  ・草木の低木の上にマットを敷き寝袋に包まって野営しました(参加者)

(5)マスコミの問に対する登山専門旅行会社の見解
      黒川 恵(アルパインツアーサービス株 代表取締役)

ツアーを扱う旅行会社は安全に配慮しながら参加者に安心感を与える努力をしなければなりません。しかし登山は自分自身の体力と気力と経験を駆使して達成するスポーツですから、参加者自身も知識と技術の習得や体力の維持に努めていただきたいと思います。
個人山行もツアー登山も登山に変わりはないということです。

日本旅行業協会(JADA)は、ツアー登山運行ガイドラインを安全対策の観点から改訂。
装備不十分なツアー登山客に対し参加を断る。今回のトムラウシでのような、占有など避難小屋の迷惑行為はやめる、などを追記しました。

(6)ツアー登山ガイドの判断に影響を及ぼすものについて
      磯野剛太((社)日本山岳ガイド協会専務理事)

ツアー参加者の能力
(1)経験 (2)体力 (3)技術 (4)知識 (5)理解
ツアー登山会社の会社委託にともなうガイドの判断要素
(1)企画内容 (2)参加基準 (3)旅程保証 (4)会社意向 (5)会社の能力
ツアー登山のガイドは参加者の能力を総合的に把握しさらに自然状況との対比のなかで、
的確な最終判断をしなければならない。

今回のガイドはガイド協会の会員でした。
トムラウシ遭難事故調査書を報告予定です。

(7)トムラウシ遭難事故の法的問題
       溝手康史(弁護士)

ツアーガイドは客を安全に案内する義務がある
ツアー業者はツアー登山を安全に管理する義務がある。

今回の事故についてはガイドに法的な注意義務違反があったことは否定できないだろう。

ツアー登山リスク回避について
・山域、ルート、時期、日程などの安全管理
・ミスを想定した余裕あるツアーの設計
・ガイドのリスク管理の能力
・パーテイのコミュニケーション
・参加者への事前説明
 が示された。

(8) 山岳団体から見たトムラウシ問題
       西内博(日山協遭難対策委員長)

(1)組織登山者はどう捉えたか ・またか ・ありえない ・気の毒に
(2)登山者の計画とリスク対策 ・計画の判断・コースの判断・天候の判断
(3)事故時の他の登山者の行動  ・他の多くの登山者は回避
(4)組織登山者は安心か  ・山岳会のリスクの増加 ・高年齢化 ・教育不全
(5)山岳団体はどう対応すべきか ・指導員制度の現状と問題点
 について見解が示された。


第二部 8人のパネリストと、会場の参加者との共同討議

事故の原因と問題点に関する総合討議
      座長 青山千彰(IMSAR-J 会長)

原因を究明して事故の再発を防ぐのが目的であり、当事者の責任を追求するものではない。
この事故は参加者の認識不足、ガイドの五つの判断ミス、ツアー会社の4つの対応ミス
が複合因子と事故連鎖という形で繋がっていった。

気象関係から   城所邦夫(山岳気象アドバイザー 元気象庁山岳部)

標高の高い山岳地域は平地に比べて早く悪化し、回復が遅い。
発達した低気圧の通過後は遅いということに注意すべきです。
高層天気図の利用も必要です。
ガイドは天気図をとってない、天気情報を聞いた様子はない。
前々日の白雲岳の携帯の天気予報で行動した様子である。ラジオは持っていなかった。(岩城史枝

ツアー会社の問題について 黒川 恵(アルパインツアーサービス株 代表取締役)

登山者起業の登山専門特化会社はわずか数社ではないか。
全国遭難協議会に旅行業を管理する国土省は参加しているのか(フロア参加者からの質問)
→現在参加していない
避難小屋の占有とかはやめるべきではないか(フロア参加者)
→日本旅行業協会(JADA)ではそういう行為はやめるようにガイドラインに明記した。

ツアー会社の安全に対する理念について 

安全を管理できる会社であるか。
リスクの高いツアー、ガイドのミスを起こすような余裕のないコース設定は避けるべきだ。ツアー登山会社全般に言えることである。(弁護士 溝手康史)

客との関係の中で客からの要望等がガイドへの圧力となることはないのか。(村越)
そうあってはならない。安全が利益に優先する。(黒川)

ガイド管理について 

登山ツアー会社に所属していたガイドの話をテキストに掲載した。(青山)

ガイドについて

意志決定状態が全くみえない。ガイド同士の連携もみえない。(磯野)
ガイドについては5つの判断ミスがあった。(青山)

低体温症について  船木上総 (苫小牧東病院副院長)

低体温症について初期の症状は
 ・震え ・歩けない ・判断力の低下
ヒサゴ沼から稜線に上がった頃から低体温症が始まったのではないか。
体温32℃以下では急速に悪化する
そうなる前に早く気づき、予防する。体温を奪う要素を除去する。
岩、地面との接触を避ける(熱が奪われる)

ガイドの危機の訓練について   (磯野剛太)

低体温症の知識が乏しかったのではないか。
天候の判断においての過ち
そこまで至るとは思わなかった。

ツアー登山会社はガイドの能力について的確に把握しておく必要がある。(西内)

どんな登山でもリスクはある。ツアー会社とガイドには客の安全を守るという義務があるが
参加者自身も自分の命を守るという意識が必要だ。(溝手康史)

食料について

疲れには糖分の摂取が必要。(船木)
食料は個人持参でお湯のみを提供する仕組みであった。(黒川)
低体温症の予防と治療はシエルター。熱を奪う要素から身を守る。(船木)


第三部 ツアー登山における遭難事故防止のあり方について

天気について
  低気圧が去った後の状況の勉強
  高層天気図の利用も有効です。(城所邦夫)

参加者について
  山に登るという行為は人まかせにするべきではない。
   登山者の方もレベルアップを図っていくべきだ。(岩城)
  低体温症のシュミレーションは山で行う。(船木)

・観光庁とも話し合いを続けて行きたい。旅行登山関連者の多くの参加の機会を図りたい。(黒川)
・ガイドの資格について安全管理面でスタンダードに見えるような仕組みをやっていきたい。(磯野)

・技術講習、遭難訓練、研修会、講習会にも積極的に参加し、先輩から受け継いた山への心構えをもっと高めていきたい。(フロア参加者)

・連れてってもらうという参加者の意識と、リーダーの意識 両方の意識の変革が必要である。(フロア参加者)


雪崩の指標は雪崩そのもの、事故防止は事故そのものを知ること。
事故のデーターを収集解析を続けて事故防止をやっていきたい。
登山の基礎義務教育をだれでも受けられるような体制を登山団体が用意していく、このようなシンポジウムが取っかかりの一歩となります。(西内)

閉会の挨拶        井斧昌二(日本勤労者山岳連盟副理事長)

私たちのクラブも事故当日トムラウシにおりまして、前後しました。
今日の貴著な報告を皆様のこれからの登山、教育活動に使ってください。
今日のシンポジウムが遭難防止に、登山文化に、役立ちますように。
参加の皆様、パネリストの皆様、戸田様、ありがとうございました。


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内藤順造(社団法人日本山岳協会副会長・専務理事)
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戸田新介氏
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村越真氏(静岡大学教授
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シンポジウムの主旨
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一日目
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二日目のポイント
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三日目
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岩城史枝(岳人編集部)
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青山千彰(IMSAR-J 会長)
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山岳遭難事故とトムラウシ
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高齢者登山の時代の幕開け
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多様化する高齢登山者意識
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トムラウシを風化させないため
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遭難事故時の気象状況
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城所邦夫(山岳気象アドバイザ
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生死を分けた衣類の違い
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磯野剛太((社)日本山岳ガイド協会専務理事) 
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遭難事故調査報告書
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溝手康史(弁護士)
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西内博(日山協遭難対策委員長
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登山の計画とリスク
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青山千彰(IMSAR-J 会長
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井斧昌二(日本勤労者山岳連盟副理事長) 

 

 ⇒ PDF書類
シンポジウム資料98ページ5125kb
 

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