関西大学名誉教授 青山千彰
我国の山岳遭難事故の特徴は、2000年に遭難者総数1494人を記録した後、2018年で3129人と最高値を示すまで、約20年にわたり右肩上がりの増加傾向を示してきました。幸い2020年には高齢化やコロナ災禍の影響などで、僅かに減少しましたが、今後、減少に転じるかどうか分かりません。
しかし、遭難対策活動は、長年、社会問題となるものの、注意喚起などの呼びかけ以外に具体的な対策は取られませんでした。事故の発生があまりにも広範囲で対策の取りようがなかったのです。そこで、具体的な数値目標を設定し、遭難者を減らす「減遭難活動」を2012年より開始しました。ここで、「減遭難」という用語は、「防災」の世界で、災害を完全に防ぐ事は難しいため、少しでも被災程度を減らす「減災」活動の考え方を参考に、山岳遭難も、事故をゼロにする「遭難防止」は難しく、事故数を少しでも減らす運動を「減遭難」としたものです。
(公社)日本山岳・スポーツクライミング協会(JMSCA)における減遭難活動は、遭難者総数を1000人台に戻す「ストップザ1000」という運動を開始するとともに、全国3箇所(大阪金剛山、兵庫六甲山、奥多摩山域)にモデル区を設定し、その範囲内での事故者数を減らす運動を開始しました。
減遭難活動の特徴は、山岳団体が独自に活動して、効果を得ることが難しいことです。事故が発生する山域に関係した地元行政や山岳団体が、それぞれの特長を生かし、共同作業して初めて成果を得ることができると考えられますが、まだ、どのようにすれば一番効果的であるのか、模索中の段階です。モデル区設定の目的は、活動方法のあり方を検討し、そこから得られたノウハウを全国に広げていく点にあると言えるでしょう。
幸い、大阪では、14の大阪、奈良関係行政機関と山岳団体から構成された「金剛山安全対策連絡会」を発足しました。事故のデータベースを基に、様々な登山道で、何故、道迷い事故や転倒・滑落事故が発生したのか分析し、その対策方法を検討します。そして、地権者問題などに配慮しながら、危険箇所を知らせる案内板を設置する段階にまで至っています。もちろん、この活動は長い時間をかけて、設置箇所での事故発生状況を観察しながら、減遭難の有効性を検討する予定です。
青山千彰(あおやまちあき)
長年、道迷い遭難のメカニズム解明に取り組む。・関西大学名誉教授(工学博士)・国際山岳連盟(UIAA)委員・(公社)日本山岳・スポーツクライミング協会(JMSCA)理事、遭難対策委員会常任委員・日本山岳SAR研究機構(IMSAR)会長・(一社)大阪府山岳連盟顧問など