一般社団法人 大阪府山岳連盟
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〈寄稿〉金剛山系のマサ土斜面を侵食し、崩壊の誘因となる勝手道

金剛山の崩落に関連し、関西大学名誉教授 青山千彰先生より、特別に寄稿をいただきましたのでご紹介します。

『金剛山系のマサ土斜面を侵食し、崩壊の誘因となる勝手道』

1.金剛山系の花崗岩とマサ土化

金剛山、葛城山の周辺地質は、領家帯にある花崗岩類(花崗岩、花崗閃緑岩、トーナル岩)でできています。花崗岩は等粒状組織と呼ばれているように、石英、長石類、雲母などの結晶した粒子が組み合わさって構成されるため、斜面の表面に近いところでは物理化学的な作用により、風化しやすい特徴を持っています。風化すると、一見岩に見える塊でも、少し力を加えると、粉々になり、真砂土(マサ土)と呼ばれるに土粒子に変わります。

このマサ土が、川に流され海岸線に堆積する(運積土と呼ばれる)と白っぽい砂浜を作ります。瀬戸内海沿岸が美しい白砂青松の風景を作るのは、主に、このマサ土から供給された粒子で構成されるからです。

2.斜面崩壊しやすいマサ土地帯

一方、運積土に対し、風化してマサ土化しても崩れずに、そのまま元の位置に留まる場合があります。これを風化残積土と呼びます。母岩である花崗岩の等粒状組織構造を残しながらも、長石や、有色鉱物(雲母、角閃石)などが粘土鉱物となり、粒子間の隙間が開くため、虫歯のような不安定な構造になります。当然、雨水により、侵食されやすく、大雨の時は、斜面崩壊が多発します。

その典型的な事例が神戸市です。過去何回となく、大規模土砂災害を経験しています。豪雨時に斜面崩壊が多発し、やがて土石流となって谷川を流れ下って神戸市を襲いました。そのため、六甲山から神戸市街を流れて海岸線までの河川には、土砂が流出されにくいように砂防堰堤が設けられています。

国土地理院公開の空撮(1960年代)と地図を合成

同じ花崗岩類から構成される金剛山でも、1960年代の豪雨災害で、多数の斜面崩壊が発生しましたので、多数の砂防堰堤を見ることができます。

3.マサ土斜面崩壊のメカニズム

さらに詳しくマサ土斜面崩壊のメカニズムを見ていきましょう。風化残積土の構造は、岩の状態から地表面に向かって、結晶どうしの粒界面が緩んだL層(かろうじて手の力で粉砕)から、だんだん粘土鉱物が増えていくM層(簡単に粉砕)、そして、粘性が増していくU層から構成されています。斜面では、この風下層は薄く0.5m~1m程度です。さらに、この風化層を覆うように植物遺骸と土が混合した表土層が覆います。このような風化断面ですから、L~M層付近に透水性が高い構造になっています。通常の降雨では主に表土層までの浸透となりますが、豪雨時には、L~M層にまで達すると、急速に浸透水がこの層に沿って広がり、やがて、パイピングで吹き出すか、滑り面となって崩壊します。

花崗岩地帯の豪雨災害事例

マサ土地帯での斜面崩壊の特徴が、写真のように表層剥離型崩壊と呼ばれる薄く表層を削ったように崩壊するのは、このような理由です。

4.豪雨災害へ導く勝手道

風化残積土は、ハイカーが通過するだけで、登山靴によりボロボロと侵食される特徴があります。いわゆるオーバーユースです。洗掘され、道が拡幅し、土壌が流出します。

さらに、勝手道(ショートカット道)として、尾根斜面のところに道ができると、侵食された道は豪雨時に水の浸入口となります。

ヤマレコ地図に勝手道の一部を加筆

金剛山には無数の勝手道ができています。最後の図は、金剛山系に広がる勝手道です。ヤマレコでのハイカーの通過軌跡から、地形図に描かれていない道を勝手道として、図中青線で描いたものです。驚くほど勝手道が縦横に伸びていることが分かります。

これは、ハザード(普段は問題ないが、豪雨など条件次第でリスクに転じるもの)です。多くの人たちは、昔は金剛山でも斜面崩壊したが、最近では防災技術が進み、ほとんど崩壊しなくなったと思われているかもしれませんが、それは運が良いというだけのことです。いつの日にか、金剛山系に線状降水帯がやってきたとき、このハザードと重なり、斜面崩壊が多発する日がやってきます。その時までに、勝手道の数をできるだけ減らしておきたいと願っています。

著者:青山千彰(あおやまちあき)長年道迷い遭難のメカニズム解明に取り組む、地質分野では花崗岩が専門。

  • 関西大学名誉教授(工学博士)
  • 国際山岳連盟UIAA委員
  • JMSCA UIAA資格委員会委員長
  • IMSARJ 日本山学SAR研究機構会長
  • (一社)大阪府山岳連盟顧問 ほか要職多数

〈寄稿〉大阪・兵庫で始まった減遭難活動

関西大学名誉教授 青山千彰

我国の山岳遭難事故の特徴は、2000年に遭難者総数1494人を記録した後、2018年で3129人と最高値を示すまで、約20年にわたり右肩上がりの増加傾向を示してきました。幸い2020年には高齢化やコロナ災禍の影響などで、僅かに減少しましたが、今後、減少に転じるかどうか分かりません。

しかし、遭難対策活動は、長年、社会問題となるものの、注意喚起などの呼びかけ以外に具体的な対策は取られませんでした。事故の発生があまりにも広範囲で対策の取りようがなかったのです。そこで、具体的な数値目標を設定し、遭難者を減らす「減遭難活動」を2012年より開始しました。ここで、「減遭難」という用語は、「防災」の世界で、災害を完全に防ぐ事は難しいため、少しでも被災程度を減らす「減災」活動の考え方を参考に、山岳遭難も、事故をゼロにする「遭難防止」は難しく、事故数を少しでも減らす運動を「減遭難」としたものです。

(公社)日本山岳・スポーツクライミング協会(JMSCA)における減遭難活動は、遭難者総数を1000人台に戻す「ストップザ1000」という運動を開始するとともに、全国3箇所(大阪金剛山、兵庫六甲山、奥多摩山域)にモデル区を設定し、その範囲内での事故者数を減らす運動を開始しました。

減遭難活動の特徴は、山岳団体が独自に活動して、効果を得ることが難しいことです。事故が発生する山域に関係した地元行政や山岳団体が、それぞれの特長を生かし、共同作業して初めて成果を得ることができると考えられますが、まだ、どのようにすれば一番効果的であるのか、模索中の段階です。モデル区設定の目的は、活動方法のあり方を検討し、そこから得られたノウハウを全国に広げていく点にあると言えるでしょう。

幸い、大阪では、14の大阪、奈良関係行政機関と山岳団体から構成された「金剛山安全対策連絡会」を発足しました。事故のデータベースを基に、様々な登山道で、何故、道迷い事故や転倒・滑落事故が発生したのか分析し、その対策方法を検討します。そして、地権者問題などに配慮しながら、危険箇所を知らせる案内板を設置する段階にまで至っています。もちろん、この活動は長い時間をかけて、設置箇所での事故発生状況を観察しながら、減遭難の有効性を検討する予定です。

青山千彰(あおやまちあき)
長年、道迷い遭難のメカニズム解明に取り組む。・関西大学名誉教授(工学博士)・国際山岳連盟(UIAA)委員・(公社)日本山岳・スポーツクライミング協会(JMSCA)理事、遭難対策委員会常任委員・日本山岳SAR研究機構(IMSAR)会長・(一社)大阪府山岳連盟顧問など

官民一体となった減遭難活動

一人でも多くの方が安全に楽しく「山」を楽しめると願いを込めて、減遭難活動始まりました。

金剛山系における減遭難活動、きっかけは当地を所轄する大阪府の方に「金剛山系の事故マップを作り、遭難事故抑止に活用できないか?」と問題提起したのが始まりでした。当初は金剛山系でそんなに事故は起きていないだろうというほどの気持ちでしたが、関係機関への取材を通じて、死亡事故を始め毎年多くの方が事故に遭われている事が分かりました。

また(公社)日本山岳・スポーツクライミング協会でも、遭難対策委員会が中心となり「減遭難」活動が動き出していました。それに歩調を合わせる意味で大阪府と協議を重ねた結果「金剛山安全対策推進連絡会」の設置となり、遭難メカニズムの第一人者青山千彰先生を中心とした官民一体となった減遭難活動が始まった次第です。

さて、多くの方に人気の高い金剛山には幾多もの「道」があります。しかしそのほとんどは管理者が不明であったり、地権者に知らされることなく愛好者によって登山道化されたり、また案内看板がつけられていたりしています。利用するうちに踏み固められ、道のようになっている箇所も多くあります。

ご承知のように、私達の意思に反して自然災害は毎年のように起き、山の地形は絶えず変化しています。そのような中で愛好者の方のご厚意も、自然によってもたらされる変容に責任を持ってすべてに対応できるものではありません。また管理者不明の道では、崩落の危険を内在したまま放置されているところもあります。そのような道を私達は「勝手道」と呼び、危険度の高いルートであるとの警鐘を鳴らしてまいります。

自分の判断で山歩きができる上級者の方は、地形や天候など自然の状況を考慮しながら山を楽しめるでしょうが、山登りを始めたばかりの初心者や、まだ経験の少ない初級者の方が多く楽しまれるこのエリアでは、「案内看板」や「しっかりした踏み後」だけでは危険であるかないかの判断がつかず、ましてや絶えず変容する自然の中では遭難を招く可能性が高まります。実際、遭難事故に遭われているのは、勝手道での転倒・滑落が多数を占めます。

決してルートを塞ぐことが目的ではありません。このような活動に反論される方もおられることでしょう。また、もっと良い方法もあるかと存じます。現在、市町村、消防、警察、地元山岳会のご協力によって遭難事故場所や特徴のデータベース化を進めています。同時に、最適な表示とはどういうものか、どのように設置すれば良いかなどの研究も進めています。

まずは、大阪府が管理する伏見林道(念仏坂)から山上に至るルートから始めましたが、すべての方の安全登山に役立つよう、今後隣接県山岳連盟を含めた官民一体となり、協力しながら進めて行く所存ですので、どうかご理解のほどお願いいたします。

 (一社)大阪府山岳連盟 専務理事 石田英行

(公社)日本山岳・スポーツクライミング協会 遭難対策委員会副委員長
日本山岳SAR研究機構(IMSAR)副理事長・事務局長

 

金剛山域における山岳遭難事故を減らす活動を行ってまいります。

(一社)大阪府山岳連盟では、大阪府や関係自治体、消防・警察など諸団体と協同して、金剛山域における遭難事故ケガから利用者の安全を確保するために、登山道における注意喚起などの安全対策を推進してまいります。

 

このコーナーで、その活動の様子などをご報告してまいりますので、皆様の安全登山のお役に立てばと願っております。

技術遭難対策委員会自然環境委員会が協力して担当し、成果をみながら関係先とも緊密に連携し他の山域にも広げていく予定です。

どうか宜しくお願い致します。